和紙の背景に「がんばるほど、弾けなくなる。『脱力』の正体」と書かれた、ギターの体の使い方についての記事のアイキャッチ画像。
高村尚平

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高村 尚平

こんにちは!「ギターの処方箋TAKAMURA」代表の高村です。一人でも多くのギタリストに挫折することなくギターの楽しさを知ってほしい、という想いから、現在全国に「挫折させない」ギター教室を展開しています。この記事が、あなたの練習の一助となれば幸いです。


今日は、機材でも曲でもなく、もっと根っこのお話をさせてください。「ギターを弾くときの、体の使い方」についてです。

レッスンをしていると、本当にたくさんの方から、同じような相談をいただきます。

  • 少し弾いていると、手や前腕がすぐに疲れてしまう
  • 速いフレーズになると、指が思うように動いてくれない
  • 一本の指を動かすと、隣の指までつられて動いてしまう
  • 「自分は手が小さいから」「指が短いから」と、あきらめかけている

もし一つでも当てはまったら、今日の記事はきっとお役に立てると思います。

先に結論をお伝えしておきますね。これらの症状は、努力不足でも、才能の問題でも、手の大きさの問題でもありません。ほとんどの場合、原因は「体の使い方」――もっと言えば、力の入れ方と抜き方にあります。

しかも、やっかいなことに。まじめに練習を重ねてきた人ほど、この落とし穴にはまりやすいのです。今日はその理由を、順を追ってお話しします。

症状1|指が動かない・すぐ疲れる ― 正体は“ブレーキを踏みながらアクセルを踏んでいる”状態

私たちの指には、「曲げる筋肉(屈筋)」と「伸ばす筋肉(伸筋)」があります。本来は、片方が働くとき、もう片方はゆるみます。この交互のリレーがあるから、指は速く、なめらかに動いてくれるんですね。

ところが、「ちゃんと弾かなきゃ」と気持ちが入ると、この両方が同時にギュッと働いてしまうことがあります。これを「共収縮」と呼びます。

たとえるなら、ブレーキを踏みながらアクセルを踏んでいるような状態です。エンジンをどれだけ吹かしても、車は前に進みません。それどころか、どんどん消耗していきます。手がすぐ疲れるのは、まさにこれが起きているサインなんです。

◎ 本来の動き ― 筋肉は交互に働く 曲げる筋肉 はたらく 伸ばす筋肉 ゆるむ → スッと動く・疲れない ✕ 力んだとき ―「共収縮」(両方が同時に働く) 曲げる筋肉 アクセル全開 伸ばす筋肉 ブレーキ全開 → 動かない・すぐ疲れる
図1|共収縮:ブレーキとアクセルを同時に踏んでいる状態では、指は動けません

そして、ここに悪循環があります。

「動かないから、もっと力を入れる」→「共収縮が強まって、さらに動かなくなる」→「もっと力を入れる」……。

がんばればがんばるほど動かなくなる。だから「まじめな人ほど力む」のです。あなたの性格の良さが、そのまま裏目に出ているだけなんですね。

症状2|隣の指がつられて動く ― あなたのせいではありません

一本の指を動かそうとすると、隣の指まで一緒に持ち上がってしまう。これは「フライング・フィンガー」と呼ばれる、ごく自然な現象です。

指を一本ずつ独立して動かすための“神経回路”は、生まれつき備わっているものではなく、これから育てていくものです。回路がまだ育つ途中だと、脳から出した信号が隣の指にまで漏れてしまう。ただそれだけのことなんです。

私はレッスンで、よくこう言っています。「小指くんは、薬指くんがバンバン悪さするからね」と。指が言うことを聞かないのは、あなたの才能の問題ではなく、回路が育つ途中だという合図。育てれば、必ず動くようになります。

症状3|「手が小さいから・指が短いから」― 実は、原因はそこではありません

これは、はっきりお伝えしたいところです。

レッスンで「指が短いから難しいんです」とおっしゃる方に、私はいつもこうお答えしています。「指が短いから、というのは関係ないですよ。力が入っちゃうことのほうが、原因なんです」と。

実際、手の小さな生徒さんが、そのサイズだからこそきれいに指を使えている、という場面を私は何度も見てきました。小指がそもそも弱い指であることも、悪いことではありません。強く押さえられないからこそ、とてもソフトなタッチができる。柔らかい音を出すには、むしろ適性なんです。

体格は変えられません。でも、力みは直せます。変えられないもののせいにして諦めてしまうのは、あまりにもったいない、というのが私の考えです。

動画で見る|『脱力』の正体

ここまでの「なぜ力むと動かなくなるのか」は、実際に手元の動きを見ていただくのが一番早いです。YouTubeで多くの方にご覧いただいている解説動画がありますので、よかったら合わせてどうぞ。文章で読んだ仕組みが、実演でつながるはずです。

処方1|「まず力を抜く。それから動かす」― 順番を逆にしない

原因が分かったところで、ここからが処方です。一番危ないのは、力んだまま根性で反復することです。

脳は反復した動きを「正解」として覚えていきます。つまり、力んだまま練習を重ねると、脳は「この力んだ動かし方が正解だ」と間違って学習してしまうのです。「弾けないから、もっとたくさん練習する」が逆効果になることがあるのは、このためです。

だから順番は、まず力を抜く → それから動かす。遠回りに見えて、これがいちばんの近道です。

処方2|押さえる力は「ノンアルコールビール」くらい

「力を抜いて」と言われても、どのくらい抜けばいいのか分からない――そうですよね。私がレッスンでお伝えしている目安は、こうです。

押さえる力は、軽く引っ張るだけ。ノンアルコールビールくらいの感じで我慢する。

「ちゃんと押さえよう」と握り込むのではなく、音が鳴るギリギリの、物足りないくらいの力で止めておく。実際に試していただくと、思っている半分以下の力で、ちゃんと音は鳴ってくれます。

処方3|指は「磁石」と「ホバリング」― 動きを最小にする

力みは、大きな動きからも生まれます。

  • 弾いたら、磁石でくっつくようにすぐ元の位置に戻ってくる、小さな動きを意識する
  • 使っていない指は、高く跳ね上げずに、弦の上に触れているだけの状態(ホバリング)で待たせておく

指を高く上げれば上げるほど、戻ってくる距離が伸びて、速いフレーズに間に合わなくなります。小さく、低く、そっと。これが速さと正確さの土台になります。

✕ 指が高い 戻る距離が長い = 速いフレーズに間に合わない ◎ 触れるくらい低く 磁石のように すぐ戻れる = 小さく・低く・そっと
図2|指は弦の上を“ホバリング”。磁石のように小さく戻るのが、速さと正確さの土台です

処方4|ゆっくり弾く ― これは「脳の回路を作る作業」です

「ゆっくり練習しましょう」とよく言われますが、なぜだかご存知でしょうか。

練習とは、脳の中に新しい回路を作っていく作業です。速いテンポで雑に繰り返すと、下手な動きの回路をどんどん焼き直してしまう。だからこそ、正しい動きを、脳が覚えられる速さで通してあげる必要があるんです。

テンポを上げるときも、一気に上げないでください。人間の脳は、メトロノーム1メモリ程度の変化には気づきません。3日に1つずつくらいのペースで上げていけば、「苦しかった」という記憶すら残らないまま、気づけば目標のテンポに届いています。ちょっとずつ重くしていく筋トレと同じ考え方ですね。

処方5|握力トレーニングの器具は、使わないでください

これは注意点として、はっきり書いておきます。

「指を鍛えれば弾けるようになるのでは」と、握力を鍛えるグリップ器具に手を伸ばしたくなる気持ち、よく分かります。でも、ギターに必要なのは強い力ではなく、繊細なコントロールです。ギュッと握り込む訓練は、その繊細さを失わせる方向の練習で、目指す場所とは真逆なんです。

鍛えるべきは筋力ではなく、神経回路。ここを間違えないでいただきたいのです。

まとめ|一度できた回路は、一生モノです

今日の処方箋を、短くまとめます。

  1. 指が動かないのは、力み(共収縮)のせい。才能や手の大きさのせいではない
  2. まず力を抜く。それから動かす。順番を逆にしない
  3. 押さえる力はノンアルコールビールくらい。動きは磁石とホバリングで最小に
  4. ゆっくり弾いて、正しい回路を作る。テンポは3日に1つずつ
  5. 握力トレーニングはしない

こうした基礎の練習は、地味です。毎日5分でかまいません。レッスンでの実感として、3ヶ月ほど続けていただくと、多くの方が変化を感じ始めます。

そして、ここが一番お伝えしたいことなのですが――一度できた回路は、一生モノです。ギターは、正しく積み上げたものが消えない楽器です。今日の5分は、10年後のあなたの演奏にそのまま残ります。こんなにお得な投資は、なかなかありません。

「力を抜く」は、一人だとなかなか加減が掴みにくいものです。もし「自分の場合はどこが力んでいるのか知りたい」と思われたら、いつでも処方箋を書きにきてくださいね。

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今日お話しした「脱力」も、文章だけでなく動画で見ていただくと、ぐっと掴みやすくなります。いわば“最初の処方箋”です。ぜひ受け取ってくださいね。

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力を抜くことは、手を抜くことではありません。あなたのギターが、もっとラクに、もっと自由に歌いだしますように。それでは、また次回お会いしましょう。

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